【2019石川県カヤック旅②】塩田村から輪島市街まで27㎞
このツーリングは粟津海岸を出発し巌門まで期日を設けずに漕いで旅する話。 テントと食料、それに遊び道具を積んで野宿しながら巌門を目指します。
前回は塩田村まで漕いだものの、フリクションのインクが全て蒸発し日記が欠けないという事態に見舞われた。
この日は野宿する前に何か書くものを手に入れようと、物資の調達を念頭に置いていた。
塩田村から輪島市街までは27㎞|6時間で到着
キャンピングカーやバイカーの拠点となる道の駅には昼夜を問わず人や車がやってくる。
塩田村もそうなのかなと気にしていたが、奥能登の人気のなさなのか認知度不足なのか、塩田村は夜になるとバイクも車も全く来なかった。
日中カヤックを漕ぎまくって、夜は本を読む以外にやることがないので旅の最中は寝るのが早い。
携帯電話はバッテリーの消費が勿体ないので、常に携帯はしているが電源は入れていない。
出発や到着、その他電源を確保出来た時にだけ嫁に安否連絡をしている。
急用でなければ嫁以外には電話もLINEも送らないし、嫁も連絡はしてこない。
折角世間を離れて孤高の旅を楽しんでいるのに、わざわざ旅先からそちらの世界に戻る必要はないと思う。
塩田村から垂水の滝
1日目の宿泊地は塩田村となったが、実は垂水の滝に泊りたかった。
水が豊富にあることと滝を間近にみながら一晩過ごしてみたかったのだが、塩田村から垂水の滝までの僅か4㎞をどうしても漕ぐ気になれず断念してしまったのだ。
垂水の滝は小石の浜だった
翌朝塩田村から垂水の滝まではあっという間についてしまった。
僅か4km程なので30分もあれば着いてしまう。今更ながらやはりもう少し漕いで置けばよかったと思ってしまった。
垂水の滝がある浜は砂浜ではなく小石がたくさんある浜だった。
波打ち際には 日本海の荒波が形成したと思われる小さくて丸い石が無数にあり、いくつかエメラルドグリーンの石もありとても綺麗だった。
ばかうけのマジムン
丸く形成されたエメラルドグリーンの石を見つけたのでお土産に持って帰ろうとしたとき、あることを思い出した。
それは僕が20代の頃、沖縄の離島で遊んでいる時のことだった。
大小様々な石があるビーチでお菓子のばかうけの様な石を見つけた。
「ばかうけ!ばかうけ!」とあほの様にはしゃいだ僕はその石を持って帰ろうとした。
すると友人が、「えー、くじららいだー、石は駄目だよー。マジムンがついて来るっていわれてるよー」と言って来た。
僕は友人の言葉を素直に受け入れ持っていたばかうけをその場に置いてきた。
以来、僕は石を持って帰ったことはない。
なので今回も石を拾い上げはしたものの持って帰ることはしなかった。
滝の水を試飲
滝を見たら浴びたり飲んだりしたくなるってもんだ。
たった4㎞漕いだだけとはいえ既に体中から汗が噴き出ている僕は滝に近づいた。
写真で見るとか細い滝だが、近くまで来るとそこそこ勢いがある。
だが障害物がなく上から落下してくる滝ではないので、修行のように打たれることは出来ない。
飛沫を浴びるか岩に体を近づけることでようやく頭から水を浴びることが出来た。
我が家の井戸水もそうだが、自然の水はくっっっそ冷たい。
浴びた瞬間一瞬息がとまるかと思ってしまった。
だが慣れれば気持ちが良い、ついでにコップに注いで一杯飲んでみることに。
川の水は結構バイ菌がいたりする。
昔サラリーマンの頃、会社の幹部2人を連れて川辺でBBQをしたことがあった。
お酒を割る水を川から調達していたのだが、その日の内に僕以外の2人が見事に腹痛を訴えた。
何故か僕だけは何ともなく、抗体のようなものがあるのか、そもそも何かが強いのかもしれない。
なのでここの水も美味しく頂くことが出来た。
垂水の滝ポケットパーキング
ここはどうやら地図上にはポケットパーキングと書かれているらしい。
辺りを散策するとベンチやら何やらがちょこちょこある。
歩道に上がると通行止めの看板があった。
僕は海から来たので分からず仕方ないが、どうやら滝には近づいてはいけないらしい。
空き地があるのでここにテントを張って一泊したかった。
垂水の滝の水で作るパスタはさぞ旨かったであろう。
水割りも飲んでみたかった。
因みに垂水の滝にはトイレが無く駐車場と空き地だけだった。
向かいにホテルが2.3個建っているので自販機はあるが、もしトイレも必要ならやはり塩田村で野宿することをお勧めする。
輪島市突入
垂水の滝には実は遊歩道なるものがあり、海沿いをひたすら斜面に沿って続く危険な道がある。
頼りないロープに頼りない杭、僕でもこの遊歩道は歩きたくないと思うほど危険な仕様だ。
ここは歩かずに海から眺めることをお勧めする。
遊歩道の先には謎の洞窟があったりと、陸路からは決してみることの出来ない光景がある。
不思議な旧道に沿って漕いでいると空洞のある岩が見えて来る。
もうここは輪島市である。
輪島市曽々木にある洞窟
この辺りは曽々木と言い、サーフィンで何度か来たことがある場所だ。
サーフポイントを輪島に進むと岬があり、ここには道路からも見える洞窟がある。
遠目にしかみたことが無かったので気になっていたのだが、僕はこの地形からして他にも洞窟があるのではないかと予想していた。
輪島市に向かいながらこの場所だけは絶対に調べておきたい場所だった。
窓岩から見える岬はなかなか遠く見えるがおよそ3㎞弱、朝凪で海が穏やかなのでのんびりとパドルを動かした。
段々と見えて来る岬は既に洞窟の臭いがプンプンする。
僕は滝と洞窟が大好きなのだ。
思った通り面白い洞窟だった
岬について陸側から散策すると早速洞窟が2つあった。
だがどちらも天井が低くカヤックで入ることはできないし、直ぐに行き止まりとなっている為中に入る必要もなかった。
「くそー、洞窟あるあるだ、他にはないかなー?」っと岬を回ると・・・
「あった!洞窟!」
「むはは、やっぱりあった!」
しかもなかなかの洞窟、突き当たると左に曲がることが出来そこから先は真っ暗で何も見えない。
ゆっくりとカヤックを進め、突き当りを左に曲がる・・・すると光が一切入らない完全な闇。
恐怖がこみ上げてくると同時に奥から甲高い騒音が聞こえてくる。
「うわぁ・・・・めっちゃコウモリいるやん・・ これはマズイ・・非常にマズイぞ・・ 」
ここは「インディジョーンズ魔宮の伝説」状態なのか?
暗闇の中から獣の甲高い声がひっきりなしに聞こえてくる。
コウモリの大群がこの洞窟の奥にいるのだろう。
即座にパドルを逆回転させ洞窟から飛び出した。
ところでなぜコウモリのいる洞窟がマズイかと言うと、普通洞窟は光が届かないので植物が生息しない。
植物も光もない場所を多くの生き物は好まないが、実はコウモリがいることで話は大きく変わってくる。
コウモリは天井にぶら下がりながら排泄をするので、天井から落ちて来る排泄は洞窟の底辺に蓄積されてくる。
洞窟の内部が全て海でない場合も結構あるので、そういった所にコウモリの糞尿はどんどんたまっていく。
排泄物はやがてガスを発生し洞窟の内部を温め、さらに排泄物は昆虫の食事となるためその昆虫を狙った生き物も洞窟に集まってくる。
洞窟の中にいる昆虫、一体何を想像する?
それはゴキブリや、ゴキブリを狙ったムカデなど大小様々な昆虫である。
しかもその数は半端ない
もはや洞窟内は「インディージョーンズ/魔宮の伝説 」状態だ。
過去にコウモリのいる洞窟の内部に踏み込み異臭と地面や壁に蔓延る無数の昆虫を見てから僕はコウモリの鳴き声のする洞窟が大嫌いになった。
そして大好きなインディージョーンズシリーズの中でも「インディージョーンズ/魔宮の伝説」だけは苦手な作品である。
しかし洞窟は出てみると素晴らしい一面もあった。
入り口は高さ4m以上はあろう大きな口を開け、さらにもう一か所別の入り口もある。
二つの入り口が洞窟内で合流し、コウモリの住む奥深くへと続いている。
コウモリの洞窟は勘弁だが2つの入り口と高い天井は本当に美しかった。
丸く大きなドーム状の洞穴は脚立を使って誰かが削り取ったような作品だ。
半分水に浸かっているのは昔からなのか、それとも水かさが増して陸が海に沈んでしまったのだろうか?
ともあれ美しい造形物の懐で旅の醍醐味を満喫するのであった。
輪島の海女さん集団潜水に遭遇!そして怒られる
次に目指すは千枚田、輪島市が誇る観光名所だ。
洞窟を出てから輪島港を直線で結ぶと、陸からは少し離れた所を漕ぐことになる。
途中千枚田を海から見たかったのだが、この辺りは車で行き来している場所だったので海からでもおおよその位置が分かった。
その為海から千枚田付近の景色が見えたら陸に近づこうと、輪島までの最短距離を漕ぐことにした。
オイルを垂らしたような海
陸を離れのんびり漕いでいると、海が穏やかになり水面の様子がはっきりとわかるようになってきた。
同時に空と海の境目もあやふやになり、海を漕いでいながら空を漕いでいるような感覚にもなった。
海は静寂に包まれ、僕のパドルの音だけが聞こえる。
カヤックはオイルを垂らしたような水面を静かに突き進み、後には波紋だけが残る。
波紋を見ていると 上層をボラが泳いだり、中層をクロダイが泳いでいるのが見える。
カヤックが近づくとすっ飛んで逃げていくやつもいれば、辺りをうろうろしながら様子を見ているやつもいる。
砂地を漕げば大きなエイがカヤックの下を横切っていくのも見えるし、ふと顔をあげればカモメが直ぐ傍をカヤックと同じ高さで飛んでいる。
浮かぶことも飛ぶことも全部一色単になり、水面を浮いていることは思い込みで宙を漕ぎ進んでいる気分になる頃、千枚田は見えてきた。
輪島の海女軍団
千枚田は下から見るとしょぼいのでお勧めしない。
こんな感じの田んぼなら門前辺りにいくらでもある、千枚田は上から見るべきなのだ。
朝早くきたのもあって駐車場や展望台に車は見えなかった、が、その代わりに千枚田の少し先に無数の船が停泊していた。
その数およそ21隻!
「一体なんなのだ?網でも仕掛けているのか?」
あんな浅い所で定置でもあるまいし、まぁそれはいいとして船の前を漕ぐか後ろを漕ぐかだな。
こちらはあくまでもレジャー、あっちは生業として海に携わるプロだ。
決して邪魔をしてはいけないが何をしているのかが分からない。
兎に角近づいて様子を見て、邪魔にならない方を漕ぐようにしようと決めた。
近づいてみると船は少しづつだが移動をしているようだ。
さらにブイや浮き輪についた旗が見えて来たので、ようやく素潜りをしていることに気づいた。
海女さん総勢30人以上
圧巻の一言だった。
海女さんは2~3人くらいの1組でブイに捕まり、交互に潜って獲物を浮き輪の中に入れている。
やがて一杯になったのか、笛をピーピーと吹くと船が近づいてくる。
獲物を船に引き上げると船は再び遠ざかり同じことを繰り返す。
距離にして500mくらいだろうか、海女さんの仕事っぷりに見とれてしまった。
仕事の邪魔をしてはいけないと結構距離はとっていたつもりだが、僕に気づいた海女さんが大きな声で話しかけてきた。
「なにしているのぉー!!!?」
なにしている?なにしているって・・・漕いでる?カヤックに乗って漕いでいるのだが。
急に投げかけられた素朴な質問にどう答えたら良いか悩む。
しているのはカヤックでパドルだ、見たままなのだが敢えて聞いてる所を見ると別の意図があるのだろう。
どうする?なんて答えたら良い?
一瞬考え僕はこう答えた。
「この船で珠洲から羽咋まで行く途中です、これから輪島に寄りまーす」
すると・・・
「あんたぁ!・・・危ない・・・・何言ってる!・・・・・ワーワーギャーギャー」
どうやら止めろと言っているようだ。
しかもかなりキツく。。。。
2人同時にワーワー言うもんだから何だか分からない、パドルを早め笑顔で手を振りながら「大丈夫ですよー!」と言ってその場を去った。
と、思ったら約500mも続く海女さん軍団は今の会話を引き継ぐことで再び僕を叱りつけ始めた。
海に携わるプロだからこそ海に関してのリスクに敏感なのだ。
自己責任とは言え何かあれば漁協の世話になるのは間違いない、僕らマリンレジャーを楽しむ人はプロにしてみれば余計な仕事を増やす要因でもあるのだ。
申し訳ない気持ちを抱えながら、安全第一を肝に銘じて海女さん軍団を後にした。
輪島港はカヤックをとめられない
輪島港が見えて来たので陸に近づいて船の邪魔にならないように気を付けた。
色々と開発が行われている護岸は工作船や重機が並んでいた。
浜があれば最高だがスロープでも良い、兎に角上陸して買い物や昼食、休憩をしたかった。
この時点で時間は11時、約6時間で27㎞漕いだことになる。
港内をゆっくりと進むがスロープは見つからなかった。
カヤックで町までいける輪島市
港は苦手である。
兎に角早くカヤックを上げたいのだが上げる場所がない、どうしようかとウロウロしていたら突然川と橋が見えた。
見覚えのある場所。
ここは輪島市に買い物に来た時に見たことある橋だ、しかもあの赤い橋は朝ドラ「まれ」の撮影現場だ。
なんと輪島市は港にカヤックをあげることはできないが、市内中心部までカヤックでいけるのだ。
「中心部には薬局もスーパーも何でもある、これは何て便利な都市構造なのだ!」
絶対に狙って造ってはいないだろうがカヤッカーにはとても良い町の造りだ。
水上都市輪島市を名乗れば良いのになぁなどと思いつつ川を上りスーパーファミーのある所にカヤックをとめ、川っぺりをよじ登りスーパーへと入っていった。
カヤックで町までいける輪島市
スーパーファミーは館内全体にクーラーがきいていて楽園のようだった。
飲食やトイレを済ましえんぴつを買い、ぼけーっとしていると古本を売っているコーナーがあった。
「旅の本ももしかしたら足りなくなるかもしれない、これも何かの縁だ良い本に巡り会えるかもしれない」
そう思った僕はワゴンの中の本を漁り始めた。