粟津海岸朝の散歩。ルールを決めるのは誰か?

気持ちの良い朝、浜辺に向かう道から見える太陽の位置が真正面になってきた。
水面に反射した2つ目の太陽が眩しく目を細めてしまう。

僕が毎朝散歩に来るこの浜は粟津(あわづ)海岸と言い、粟津、森腰、宇治、引砂という4つの集落にまたがる1.4㎞程の砂浜だ。遠浅の海で100m泳いでも足が着く所もある。(干満時にはこの限りではない)

年1回行われる浜掃除は4つの集落合同で行われ、1.4㎞の砂浜を4等分したエリアのごみを掃除する。 初夏の恒例行事となっており、この日が粟津海岸に最も人が集まる日だ。

秋から冬にかけて北西の風が吹く能登半島では、風に乗って様々な漂着物が辿り着く。家に持ち帰って再利用出来る物もあれば、処分に困るものも流れ着く。
初夏の大掃除はこういったものを一掃するイベントなのだ。

では普段の粟津海岸はどんな様子かと言うと1日5人も歩かない。
その上利用者の時間は朝早く、大抵は健康を意識した老人たちの散歩である。

さて、利用者が限られてくると自ずと利用時間とコースが決まってくる。毎朝〇〇時には〇〇さんがどこからどこに向かって歩いているとかだ。基本的に利用者は老人なので、彼らはルーティンを崩さない。「今日は天気が良いのでこの時間に、このコースで歩いてみよう」などと言う考えは起こさない。雨の日も風の日も、雪の日だって同じ時間に現れる。

と、なるとだ。こちらも彼らのルーティンに合わせて行動しなければブッキングを起こしてしまう。まぁ、1.4㎞の砂浜を5人で利用しているのだからブッキングなどと呼べるものではないのだが。
それでも砂浜で犬の散歩をする人は大体リードをつけていないのでうちの2頭と出くわすのは嫌だろうし、広い砂浜をのびのびと歩くのがここの散歩の醍醐味とも言える。

そしてこの暗黙のルーティン、意外な所まで影響を及ぼしているようなのだ。

砂浜に至るまでの道には民家がいくつかあり、当然この辺りを通過する時間帯も決まってくる。家のリビングで新聞を読んでいると、2頭のジャーマンシェパードを連れた僕が歩く、すると住人は「くじららいだーさんが歩いてる、そろそろ出なきゃ」となるらしい。僕が通るのを待って手を振るというルーティンの子供もいるのだ。何とも和やかな事だが、そろそろこのルーティンの変革期に来ている。

そう、サマータイムだ!

冬は朝7時でも薄暗い能登半島、だが夏になれば5時にはばっちり明るい。つまり各々の時間も2時間前倒す事が出来るようになり、既に僕の前を歩くおじさんはこれまでの時間には現れなくなった。僕も少しづつ時間を早め様子を見ているがブッキングする事がない、これは相当早起きしているようだ。

このスライドが上手い事行かないとおじさんと僕の間の空白に僕の後ろのおばさんが割り込んでしまう。そうなるとえばしといぐしが家で暴れだすのだ。

そう、浜辺のルールも手を振る子供もお構いなしの2頭は明るくなれば起きて、早く起きたら早く腹が減って、早く飯を食ったら早く散歩に行きたいのだ。我が家は2頭の犬のルーティンに合わせて生活をしているのだ。

ん?という事はおじさんやおばさんが僕の行動に合わせてくれているのではないだろうか・・・・・?

今日も無人の粟津海岸。おじさんの足跡だけが波打ち際に残っている。